舌清掃は舌骨上筋群の活性化を通じで呼吸機能を改善する【 口腔保健学科 泉 繭依 講師 】
舌清掃は舌骨上筋群の活性化を通じて呼吸機能を改善する
口腔保健学科
泉 繭依 講師
研究内容
我々はこれまでに、舌清掃が高齢者の呼吸機能を維持向上させることを報告してきましたが、本研究では、呼吸関連筋群と舌骨上筋群との関連性に着目し、舌清掃が舌骨上筋群に与える影響について調査しました。北九州市の高齢者施設の入所者および通所者を対象した6週間のランダム化比較試験には、65歳以上の高齢者50名が参加しました。参加者は、介入群(舌磨きと通常の口腔衛生)と対照群(通常の口腔衛生のみ)に無作為に割り当てました。表面筋電位(sEMG)を用いて、吸気、呼気、および努力性肺活量(FVC)時の舌骨上筋群の筋電活動を評価し、ベースラインと追跡期間終了時に評価を行いました。分析には36名を組み入れました。呼吸時、舌挙上時、嚥下時と比較して、舌清掃時が舌骨上筋群の電位を最も活発化させました。介入群では追跡期間終了時の呼気時のsEMGの二乗平均平方根(RMS)がベースラインと比較して有意に増加しました[48.7 (18.0–177.5) vs. 64.9 (21.6–163.0), p = 0.001]が、対照群では有意な変化は見られませんでした。一般化線形モデルにより、FVCの変化率が呼気時の舌骨上筋群のsEMGのRMS変化と関連していることが示されました。これらのことから、舌清掃が舌骨上筋の筋電活動を増強することが確認されました。
この研究は2016年12月と2021年7月に「Journal of Oral Rehabilitation」、2024年9月に「Scientific reports」に掲載されました。
用語説明
舌骨上筋群:口の底にある小さな筋肉のグループです。これらの筋肉が正常に機能することで、スムーズな咀嚼、嚥下、発声が可能となります。
表面筋電位(surface electromyography):筋肉が動くときに発生する電気信号を皮膚の上から測定する方法です。筋肉が収縮するとき、微弱な電気信号が発生します。この信号を皮膚に貼った電極で捉え、筋肉の動きや強さを記録します。
二乗平均根(root mean square):筋電図を解析するときに使われる数値で、筋肉がどれくらい活発に働いているかを平均的な強さで示すものです。
研究者からのコメント
舌清掃は、口腔環境を改善するだけでなく舌骨上筋群の筋電活動を活性化し呼吸機能を改善することが確認されました。呼吸や嚥下機能の低下は老化現象として知られていますが、本研究は、その予防として口腔健康管理の重要性を科学的に証明できた論文と言えます。舌の清掃は、日常的に簡便に行えることから、これまで呼吸機能のリハビリテーションを断念せざるを得なかった認知症や寝たきりの高齢者に対しても有効と考えています。
論文?研究者情報
PubMed : https://pubmed-ncbi-nlm-nih-gov.ezproxy.lib.kyushu-u.ac.jp/33687734/
https://pubmed-ncbi-nlm-nih-gov.ezproxy.lib.kyushu-u.ac.jp/27748575/
ORCID : https://orcid.org/0000-0001-7325-9708
researchmap : https://researchmap.jp/remon1126